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日本中から学びにくる人が絶えない、300人以上の作家が活躍する笠間焼の魅力とは

近年「笠間焼」が注目を浴びている理由は、歴史や伝統をもちながらも代表的なデザインや絵柄などの特徴というのがないからかもしれない。
それはつまり作家にとっては独自のデザインの作品を生み出せるし、使い手は作風を選んで普段使いにしたり来客用にしたりと多様な用途にできるということだ。

1992年に国の指定する伝統的工芸品になった笠間焼。
遡れば縄文時代から、現在の笠間市の周辺地域では焼き物が盛んだったようで、
江戸時代になって窯業として確立したという。その頃から笠間焼は、普段使いの器として親しまれている。

戦後、金属やプラスチック類の台頭によって一時は下火になってしまったが、
1950年、窯業に関する研究と人材育成を目的として「茨城県窯業指導所」(現:茨城県立笠間陶芸大学校)が設立されたのをきっかけに
芸術家を誘致する事業や笠間焼協同組合も設立されるなど、地域が一丸となって盛り上げてきた。そのおかげで、現在は日本中から笠間焼を学びにくる学生、社会人が集まり
現在、笠間焼の作家として300人以上が活躍している。
笠間で学び、そのまま笠間に住み着く作家もいれば、ミツケルニッポンの記事で紹介したシモヤユミコさんのように、それぞれの地元に戻って笠間の土で作品を作り続ける作家もいる。
笠間焼には決まったデザインがないので、作家それぞれの個性のある作品が次々と生まれやすく、芸術作品も評価されている。
近年は、ゴールデンウイーク頃に「陶炎祭(ひまつり)」、秋には「陶と暮らし」といった陶器市やイベントも頻繁に開催され、日本全国、また海外からも焼き物好きが押し寄せるほど
盛り上がりを見せている。

 

ミツケルニッポンが出会った、笠間焼の作家とは?

伝統的な技法を継承する作家や、色彩豊かな現代的なデザインを扱う作家が勢ぞろいする陶器市は陶器ファンを楽しませてくれる。陶器市が開催される前には、それぞれの作家たちはその準備に追われ、数か月も前から大忙しだそう。
これまでにミツケルニッポンも素敵な笠間焼の作家さんたちに出会った。

都内のビストロから星付きレストランの料理人から愛される
keicondoさんの器は、一度出会うと忘れられない独特な世界観を放つ

kei condoさんの作品も、異彩を放つ存在だ。固定ファンはもちろんのこと、彼の作品を求める全国のシェフたちが後を絶たない。1981年、笠間市で生まれたkei condoさんは、茨城県窯業指導所(現・茨城県立笠間陶芸大学校)で陶芸を学んだ。2007年には、JICAの海外派遣ボランティアに参加し、南米・ボリビアで陶芸指導を行う。そして2010年、生まれ故郷、笠間市でアトリエを開き陶芸家としての道を歩み始める。

「僕の器は、料理を盛り付けて初めて完成する作品。主役は料理ですから」と語るkei condoさん。あくまで料理のための器を制作しているという想い。そのきっかけは、仙台を中心に活動する菜園料理家・藤田承紀さんとの出会いだそう。藤田氏とのコラボイベントを行うなどのさまざまな交流の中で、生産者が思いを込めて作った食材、それらを見事な料理に昇華させる料理人、それを盛り付けるための皿、それらの全てが結合し調和させるために器があり、料理や素材を引き立てたい、という想いが生まれた。それ以来、料理人との縁も広がっていく。シェフからのリクエストで生まれる器も多くある。東京・清澄白河の中華料理店「O2」からはフカヒレ料理用の皿をオーダーされ制作。リムの広いクルーズ皿も鎌倉の古我亭からのリクエストだった。必ず使う人たちの意見を聞いて、制作に活かすという。「料理にはhistoryがある、それを引き立てたい」と話すkei condoさんの器は、たしかに装飾や絵付けなどがなく、シンプルだが個性的。

その後、筆者も旅先で訪れたとあるイタリアンで彼の器に再会したとき、とても嬉しい気持ちになった。料理と器が見事に調和していたから。これからも料理人との交流で新しい器が生み出されると思うと、もっとワクワクする。

写真は味わい深い黄色の作品で、唯一無二の極みを感じる。独特の配合をした釉薬でこの色が生まれる。

南米ボリビアで陶芸を広める活動を行なっていた際に、標高の高い現地で目にした茶色と黄色が混ざり合った美しい大地の色を表現しているそうだ。

一瞬で心を掴まれる、キュートな急須たち
丁寧な暮らしにしっくり馴染んでくれる、丘上八雲の作品

丘の上の八つの雲、と書く。素敵なペンネームだが、男女で構成される陶芸ユニットだ。2022年の陶器市に訪れたとき、その可愛らしい作品たちに目を細めてしまった。特に驚いたのが、出店テントの看板に丸くて可愛い急須が貼りついている姿だ。それこそ、丘の上で雲が浮いているようだった。

見せ方はとても個性的だが、作品はとてもシンプルで無駄がない。2019年、茨城県笠間市に、急須・ティーポット専門の工房として設立した丘上八雲。笠間の陶器市をはじめ、全国の百貨店の催事や個展、都内の雑貨店などの企画展にも参加するなど、その作品に触れる機会は、年々拡がっている。

マグカップにティーバックを入れてお湯さえ注げば、お茶が飲める時代。ある茶農園からは、急須を持たない若年層が増えている、と聞いたが、丘上八雲の急須・ティーポットは、20代、30代の購入者も多いという。ひとつひとつ、丁寧に制作された急須は、美しい見た目だけでなく、機能性にもこだわっている。2022年に訪れた際にはお茶を注ぐ体験をさせていただいたが、小さな急須は持ちやすくとにかく手に馴染む。細い注ぎ口の角度も絶妙で入れやすい。気軽にお茶を飲もうという気持ちになれる急須だ。日本茶だけでなく、紅茶やハーブティでもいい。模様や柄はなく、美しい曲線のデザインで、インテリアにも馴染む。お茶を淹れたあと、そのままテーブルに置きっぱなしにしておいても、邪魔にならない。

わざわざ急須やティーポットを使って飲むからこそ、ほっと一息が贅沢なお茶時間になるだろう。

2022年、単独ブースとして初出展した作家、千葉こずえさん
美しいフォルムの花器や器が多くのファンを魅了

千葉さんは、2022年秋に開催された「陶と暮らしKASAMA」に単独ブースとして初出店。
その初出店の年に訪れたミツケルニッポン編集部は、ひときわ目立つブースがあったので立ち寄った。

器を2点3点と抱えたお客様が列をなして会計を待っており、棚にある器が次々となくなっていく様子をみて、筆者も慌ててブース内の作品を物色。さっそくお気に入りを見つけて列に並んだ。千葉さんには、ファンを魅了する作品を生み出すのはもちろん、勢いを感じる作家なのだ。

静岡県浜松市に生まれた千葉さんは、2019年まで写真関係の仕事に従事していた。クリエイティブな仕事に就いていたこともあるのだろうが、もともと興味のあった陶芸に傾倒していき、茨城県立笠間陶芸大学校に入学。そもそも笠間には、陶芸専門の大学があるのか、と改めて陶芸の町を思い知る。聞けば社会人の学生も多いらしく「現代陶芸をリードする陶芸家を輩出する産地」と「手作りを基本に日用陶磁器を生産する産地」の両面を併せ持つ陶芸産地を担う人材育成を行っているそうだ。

2021年に笠間陶芸大学校を卒業した千葉さんは、平日は陶芸作家さんの雑務を行う事務員として働きながら、自身の作品を制作する日々を送る。そして2022年、笠間市に根をおろすべく築窯し、独立することになった。もともと写真家だったこともあり、生み出される作品は自ら撮影している。美しい作品の数々は、Instagramで投稿されている。

初めてお会いした陶器市で「販売する作品が足りなくなるかも?!」とおどけた表情を見せてくれた。とてもキュートな方で、その笑顔にすっかり魅了されてしまった。筆者もこの時、手のひらサイズの少し深みのある器を購入。ちょっとした総菜をのせても少しリッチに見えるので、日々の食卓で活躍してくれている。

<笠間焼の見学・体験ができる場所>
笠間工芸の丘
所在地:茨城県笠間市笠間2388-1
定休日:月曜日(祝日・連休の場合は翌日)
営業時間 :10:00〜17:00
HP:http://www.kasama-crafthills.co.jp/(詳細はHPから)