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【インタビュー】原点回帰とチャレンジ
武田双雲氏の個展、新宿伊勢丹で8月19日(月)まで

書道家、武田双雲さん(49)の個展「愛~compassion~」が、8月19日(月)まで伊勢丹新宿店 本館6階 催物場で開催されています。個展のメインテーマ「愛」と「compassion(慈悲)」に沿って、140点 以上の作品を展示・販売、またその約9割が新作のラインナップ。書道家として25年近くの活動を経て開催される今回の個展について、武田双雲さんにお話を伺いました。

個展を開催する、武田双雲さん

本個展の開催のきっかけについて、教えてください

今49歳ですが、1年前から「原点回帰」を意識しています。40代 後半に差し掛かったころ、20代から色々な新しいことにもチャレンジをしてきたのですが、突然全部やめたくなって、1つに絞っていこう、原点に戻ろうと思ったのです。

僕にとって「原点」といえば作品を生むことなので、そこに「全集中」しました。まずSNSをやめてみて、人と連絡したり会ったりせず、1人の時間を大切に過ごしました。そして外に向かった意識を内側に向け、自分を見つめ直す時間を1年ほどやってみました。断捨離のような時間でしたね。その過程で、自分の中に変化を感じて取り組んだのが今回の個展の作品です。

心境に変化があったのですね?

そうですね、独立した当時のストリートで始めた頃のような気持ちでしょうか。新しいワクワクとドキドキが止まらないですね。ただ当時はエネルギーだけで突っ走っていましたが、今は地に足がついているという感じがします。やっと大人になったような感じです(笑)

そうした中、本個展のテーマを「愛」とされた理由は?

書道家は、「愛」とか「綺麗事」を書いたり言ったりする仕事で。それは著書など、公の場でも話していることですが、ただ、「ちょっと待て」と。綺麗な言葉を発信している自分の心の中は綺麗なのか、という問いをしたとき、汚い、と思ったのです。人の悲しみに寄り添っているつもりで全然寄り添っていないと。無慈悲な自分、冷たい自分、思いやりがない自分に気づいたとき、ショックでしたね。認めたくないですけど、事実だから仕方ないと受け止めました。

自分には「愛」がないかもしれないと感じ、今回のテーマを「愛」にしようと?

はい、もう0から学び直したような。「愛」と「思いやり」をなぜ持てていないのかっていう研究、もはや調査から入るという感じですね。

「愛」をテーマに決めて「書」にしたためていくことについて、作品にも変化が?

引き算の美しさや余白の美といったものが出てきますね。若さからくる勢いや野心などではない、もっとクリーンなエネルギーこそが「愛」なんだと思います。

「愛」がテーマの中、「宇宙」に関する印象的な作品が多いですね

子供の頃から宇宙が好きでした。理系に進んで、宇宙物理学も学んでいましたし。「宇宙」と「自我」の関係性にすごく興味があったのです。この壮大な「宇宙」の中で、なぜ自分はこんなに“小さい水たまり”で、ぴちゃぴちゃ泳げるのか、という。無限に広がった、愛溢れる「宇宙」があるのにそれを受け取りもせず、汚い水たまりでもがいているような感じがしました。そんな自分と「宇宙」が“シームレスにつながる”っていうのもテーマの一つだと思っています。

大自然や宇宙から着想を得た「アートワークス」
大自然や宇宙から着想を得た「アートワークス」

今回の展示作品140点中、ほとんどが新作ですが、双雲さん自身、一番好きだという作品はありますか?

金沢の金箔工芸「箔 一」の金箔を使用した「箔」という作品ですね。「箔 一」は、「箔」の伝統技術にこだわり、伝承しています。その技術と知恵に感動し、緊張しながら筆を入れさせてもらいました。もちろん「箔」に書くので失敗が許されない、一発勝負。普段から心を掃除しておかないとやっぱりこの緊張には耐えられないですね。職人さんたちが時間をかけて作ったものに書くため、直しがきかない状態で、そしてそれが新宿伊勢丹という場所でたくさんに人にみてもらうという、極度のプレッシャーの中で、どういう美しい心でいるかっていうのは「哲学」です。グワっといくのか、その持っていき方や哲学がこの作品に出ています。

金箔工芸「箔 一」の金箔を使用した箔打ちの緊張感と静謐さが漂う「箔」

その他に見てほしいポイントなどは?

伝統的な書道家の武田双雲がカラフルな色彩を使っている、ということが面白く斬新かなと思います。40年「墨」で表現してきましたから。このような色彩を使った作品は初めてなので見ていただきたいですね。私自身も異世界に入り込んだようで、ハマってしまいました(笑)

「愛」
「flowering of love」

和紙にご自身の「手」で書いた作品もありますね?

雪の上に手で書いたり、コンクリートが固まる前に指で書いたりしたものをSNSでアップしたら海外で評判になって、その経験が活きましたね。意外にも手に筆に感じています(笑)手も筆も40年数年使ってきたものですからね。

1400年の歴史を有する越前和紙を用いた 「越前」

-25年という節目の本個展ですが、今後どのような活動をしていきたいでしょうか?

いつもこの質問の答えが難しい(笑)明日のことは分からないというタイプで、常にその瞬間を大事にするようにしています。明日も分からないのに将来のことを考えても仕方ない。どう生きていくのか、こういう自分でありたい、といった考えを捨ててゼロにしていく作業をしています。若い時にあった野望も志もいったん全部捨ててみました。今はゼロですが、その時の環境や時流によって新しいアイデアがパッと生まれてくるかもしれないし、予想できるものではないと思います。自分の思い通りにならないのが人生、ずっと予想外の展開が続く人生です(笑)

来場者に向けて楽しみ方があれば教えてください。

先入観を取り払って、感覚で見てほしいと思っています。作品を見て、鳥肌を立てる人や涙を流す人、声を出す人もいます。そんな感動を、今回も味わってほしいですね。制作中も感覚を大事にしています。自分自身が感動してなければ、ただの作業になってしまいますし、自分の心が動くかどうかが大事。自分で書いている時に鳥肌が立つこともあるんですよ。

ミツケルニッポンの読者にメッセージをお願いします。

情報が溢れる世の中で、頭や心がいっぱいになっていたりすることがあると思います。私の個展で作品を鑑賞することで、心が一気に解放されて、ほぐされて、宇宙からエネルギーが舞い込んでくるような、そんな体験をしてほしいと思います。水たまりと宇宙が繋がる体験、自分もしてみたいですね。

「∞(愛)」
「飛翔」

<武田双雲 プロフィール>

1975年熊本生まれ。東京理科大学卒業後、NTT に就職。 約3年後に書道家として独立。NHK 大河ドラマ「天地人」や 世界遺産「平泉」など、数々の題字を手掛ける。 現代アーティストとして創作活動中。2019 年アートチューリッヒ、 2021〜2023年 ボルタ・バーゼルに出展。日本橋三越本店、 伊勢丹新宿店をはじめとする三越伊勢丹グループや、GINZA SIX、 大丸松坂屋グループ各店舗等にて個展を開催し、盛況を博す。

オフィシャルサイト:https://www.souun.net/

インスタグラム:https://www.instagram.com/souun.takeda/

【武田双雲展 愛~compassion~】

会期:2024年8月9日(金)〜8月19日(月) 午前10時〜午後8時

会場:伊勢丹新宿店 本館6階 催物場