発信

「暮らしを紡ぐ人々〜石川・小松編①〜」
安宅漁港の頼れる存在、中島睦美さん

石川県小松市。この地には、自然の恵みや伝統を背景に、自分らしい暮らしと仕事を紡ぐ人々がいました。安宅漁港で新鮮な魚を届ける中島睦美さん、接骨院でスモークチーズを作る百井和浩さん、築90年の町家を生かした古本カフェを営む金田奈津代さん、そして家族の笑顔を思いながらパンを焼き続ける吉野克俊さんと麻子さんのご夫婦。

それぞれの営みは決して大規模ではありませんが、丁寧に、心を込めて生み出されるものたちが、多くの人々の日々を彩っています。地元を愛し、家族や地域を大切にしながら挑戦を続ける4組の姿を通じて、「手のひらサイズ」の未来をつくるヒントを、4回に分けて、お届けします。

安宅漁港の新しい挑戦|中島睦美さんの直売所と魚への想い

石川県小松市、安宅漁港の風が吹き抜ける一角に、2024年5月にオープンした直売所があります。訪れる人々を屈託のない笑顔で出迎えてくれる、中島睦美さん(54歳)がこの直売所を立ち上げた本人。メガネの奥に、どこか穏やかで親しみやすい雰囲気を漂わせながらも、その姿には漁港での経験を重ねた自信と職人気質が感じられます。漁師たちにとっても頼れる存在である彼女は、漁港の新しい可能性を切り拓いています。

安宅漁港で、直売所を立ち上げた中島睦美さん

釣り好きから漁師の世界へ、そして直売所へ

中島さんは高知県出身。子供の頃から釣りが趣味だった彼女は23年前、結婚を機に石川県小松市に移住しました。夫は世界的建機メーカーのコマツに勤めており、漁とは縁遠い「陸の男」ですが、漁港での活動に深く関わっている中島さんを支えてくれていて、土曜日の直売所で忙しい時は手伝いにも駆けつけてくれると、嬉しそうに笑います。

「小松の海は、私にとって大好きな自然。釣り好きの私がここに来たのは、もしかしたら必然だったのかも」と語る中島さん。海、釣り、魚が大好きな中島さんは、もともと船舶免許を取得していたのもあり、漁港で漁師の手伝いを始めるようになりました。中島さんは、漁港の漁師たちの船に乗せてもらい、漁を学びながら漁師たちと築いた信頼関係を大切にしています。そして漁師として働き始めて6年目の2024年、調理師としての経験も活かし、漁港の直売所の立ち上げに挑戦しました。

「市場に出せないような魚でも、本当に美味しいものがたくさんある。それを地元の人たちに届けたかった」と中島さん。その想いから、漁港の休憩所だった場所を改装し、直売所と加工場を併設しました。

2024年5月にオープンした直売所には、県外からも客が訪れる

地元の魚を、もっと身近に

直売所では毎週土曜日、午前11時から午後2時にかけて、市場に出回らないような魚や干物、新鮮な魚介類を使ったお弁当や惣菜が並びます。お弁当は500円から、9種類の魚介を使った手作り惣菜たっぷりのお弁当は事前に注文があれば、1200円程度で販売するなど、手頃な価格で提供しています。その価格は市場の半値ほどのこともあるそう。中島さんは、漁協で水揚げされた新鮮な魚を使い、その日の獲れた魚によってお弁当のメニューを考えているといいます。
「例えば日本海沿岸地域でよく食べられているアワテガレイ(宗八カレイ)の干物は自慢の品。干物が苦手な方でも食べられるように、一工夫しています」と笑顔で語る中島さん。アワテガレイは春に水揚げされると新鮮なうちにすぐ一夜干しにし、冷凍保存してストックして販売。8月には完売してしまうほどの人気商品となっています。

「魚は好きだけど扱いにくい」「料理が難しそう」と思われがちな地元の魚。その声に応えるべく、中島さんは焼き魚や煮物、唐揚げなど加工品のバリエーションを広げていて、レシピは無限大といいます。「魚によって味付けもちょっとずつ変えている。魚が苦手な人に少しでも美味しく食べられるものを届けたい」というその思いが、直売所の魅力をさらに高めています。

水揚げされる新鮮な魚の美味しさを伝えたい、と中島さん

好きだからこそ続けられる挑戦

漁に出る日は朝3時に起き、睡眠時間はわずか3時間のことも。それでも「海に出られるだけで幸せ」と笑う中島さん。そのパワーの源泉は、好きなことに全力で向き合う充実感にあるようです。「漁港での仕事は体力勝負ですが、毎日新しい発見があるから楽しいんです。」

中島さんの挑戦はまだ始まったばかり。地元の加賀醤油「冨士菊醤油」を使った新しい干物の開発や、骨を取り除いた食べやすい加工品の試作も進行中。「ふるさと納税や県外発送にも挑戦していきたい」と、地元の味をさらに広げる計画を語ってくれました。また、「魚離れが進む若い世代や子育て世代に、もっと地元の魚を食べてほしい」との思いから、前日までの予約で弁当や刺身の注文も受け付けています。

赤イカのボイル、ホウボウのポワレ、エイヒレの煮付け、ボラの甘酢あんかけ、など中島さんお手製のバリエーション豊かな魚介おかずが詰まったお弁当(写真は実際の販売の商品とは異なります)

漁港の魅力をとどける直売所の未来

漁港での活動を支える漁師たちとの絆を大切にしながら、中島さんの直売所は、地元の味を守りつつ進化を続けています。安宅漁港の直売所がこれからどのように発展し、挑戦していくのか、その歩みが楽しみです。

「インスタグラムなどのSNSを見て来てくれるお客様に向けて、情報発信の頻度を上げながら、新鮮な漁港の情報を伝えていきたい」と真剣に語ってくれました。

<安宅漁港 直売所 概要>
場所:安宅漁港敷地内(石川県小松市安宅町)
電話:0761-21-6732

営業時間:毎週土曜日11時〜14時(12月中旬から2月まで休業予定)

※詳しい営業予定などは安宅漁港直売所公式インスタグラム

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