石川県小松市。この地には、自然の恵みや伝統を背景に、自分らしい暮らしと仕事を紡ぐ人々がいました。安宅漁港で新鮮な魚を届ける中島睦美さん、接骨院でスモークチーズを作る百井和浩さん、築90年の町家を生かした古本カフェを営む金田奈津代さん、そして家族の笑顔を思いながらパンを焼き続ける吉野克俊さんと麻子さんのご夫婦。
それぞれの営みは決して大規模ではありませんが、丁寧に、心を込めて生み出されるものたちが、多くの人々の日々を彩っています。地元を愛し、家族や地域を大切にしながら挑戦を続ける4組の姿を通じて、「手のひらサイズ」の未来をつくるヒントを、4回に分けて、お届けします。
接骨院で作る「骨のあるチーズ」|百井和浩さんの燻製の世界
石川県小松市の街角にある「ももい接骨院」。一見、ごく普通の接骨院ですが、入り口に掲げられた「骨のあるチーズ」というのぼり旗が目を引きます。さらに中に入ると、受付窓口に並べられたスモークチーズのパッケージが目に飛び込んできます。この不思議な光景の正体は、院長の百井和浩さん(41歳)が接骨院の運営だけでなく、スモークチーズ職人としても活躍しているからです。
大きな体と優しい笑顔が印象的な百井さん。彼の話を聞くうちに、接骨院と燻製という一見かけ離れた二つの顔が自然に結びついていきます。
衝撃のスモークチーズとの出会い
百井さんがスモークチーズ作りに目覚めたのは、13年前のこと。接骨院を開業して間もないころ、年上の男性患者さんから差し入れられたスモークチーズを食べたときでした。「今まで食べてきたスモークチーズの概念が覆されました。本物のスモークチーズはこんなに美味しいのかと衝撃を受けたのです。」またその時、「市場に出回るスモークチーズではこの味にかなわない。ならば自分で作れば、永遠に楽しめる」と思い立ったそうです。
元々凝り性な百井さんは、接骨院が休みの日を利用して、スモークチーズ作りの研究をスタート。スモークチップの種類や配合、チーズの選定など、試行錯誤を重ね、失敗を乗り越えながら、2019年にはついに商品化に成功しました。
「骨のあるチーズ」に込めた思い
商品名「骨のあるチーズ」には、接骨院の院長らしいユーモアが込められています。「接骨院だからというのもありますが、骨太さや妥協しない姿勢、美味しくて骨抜きにされる感覚など、いろいろな意味が詰まっています」と百井さん。商品名を通じて、自身のこだわりを表現しています。
趣味が生んだ職人技
燻製製造は非常に繊細な作業です。わずかな温度管理のミスが味に大きな影響を与えるため、百井さんは製造中、数時間つきっきり。「でも、これを苦労とは思いません。趣味のようなものですから」と笑います。筋トレや格闘技、ピアノ、ギターなど様々な趣味に挑戦してきた百井さんですが、ここまで没頭し、仕事にまで昇華したのは燻製だけだと言います。「燻製は奥が深く、どんどんハマってしまいました。燻製をしている時間は、”無”になれる特別な時間です。」
4つのラインナップに込める味わい
現在、百井さんのスモークチーズは4種類展開されています。
- プレーン:ナラ、ブナ、サクラなど国産原木を独自配合したスモーク。深い香りとコクが特徴。
- 山椒:粗挽きと細かく砕いた山椒をブレンドし、スモークチーズと山椒の香りが絶妙に調和。
- 胡椒:ブラックペッパー、ホワイトペッパー、ピンクペッパー、グリーンペッパーをブレンド。スパイシーでスモーキーな味わいはお酒との相性抜群。
- カマンベール:ハードタイプのカマンベールチーズを長時間スモーク。脂質が少なくあっさりとした味わいが好評。
「チーズの味を引き立たせるため、通常の燻製では使わないスギ(針葉樹)を取り入れています。甘さを引き立てる塩のように、スギがチーズの風味を際立たせてくれるんです。しかも地元小松の山の木を使っています。」
地元への恩返し
生まれ育った小松市への恩返しを意識している百井さん。「地域の人に喜んでもらいたい」という思いから、ふるさと納税にも力を入れています。また、キャンプブームに合わせた燻製教室の開催も計画中とのこと。「燻製は挑戦するほど新しい発見があります。これまで200種類以上の素材に挑戦しましたが、まだまだやりたいことが尽きません。」
燻製がつなぐ、二つの顔
接骨院の院長として、そしてスモークチーズ職人として二つの顔を持つ百井さん。その姿は、地元と人、そして食の楽しさをつなぐ架け橋のように感じられます。「必要とされる限り、地域の人のために頑張りたい」と語る百井さんの燻製の世界は、今後もますます広がりを見せそうです。
<「骨のあるチーズ」概要>
製造販売元:株式会社ももい
場所:石川県小松市津波倉町ヲ1-1
電話 :080-1951-9810
URL:https://www.momoi-company.com/
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