デザイナー兼母のやわらかな感性を
子どものためのプロダクトに詰め込んで

愛媛県のほぼ中央に位置する県都・松山市。そこを拠点に活動するグラフィックデザイナー伊場麻世さんの手がける知育雑貨ブランドがFÖRNE(フォルネ)です。
一見、子ども向けグッズとは思えないようなシックで落ち着いたカラーリングに、インテリアにすっと馴染む高いデザイン性。グラフィックデザイナーであり3児の母親でもある伊場さんが、これらをゼロから生み出した誕生の背景には、どのようなストーリーがあるのでしょうか――。

デザイナー兼母のやわらかな感性を
子どものためのプロダクトに詰め込んで

愛媛県のほぼ中央に位置する県都・松山市。そこを拠点に活動するグラフィックデザイナー伊場麻世さんの手がける知育雑貨ブランドがFÖRNE(フォルネ)です。
一見、子ども向けグッズとは思えないようなシックで落ち着いたカラーリングに、インテリアにすっと馴染む高いデザイン性。グラフィックデザイナーであり3児の母親でもある伊場さんが、これらをゼロから生み出した誕生の背景には、どのようなストーリーがあるのでしょうかーー。

難易度別でたっぷり3冊分の工作が楽しめるペーパープレイブック。手先の操作の向上も期待できそう。

朝の身支度を手助けするお支度ボード。スムーズに準備が進むとユーザーからも好評。

親子でつくる、遊ぶ、知ることを
楽しめる知育・工作グッズ

この頃、小さな子どもを持つ親世代から人気が高まっているという知育玩具。知育玩具の知育とは、“知能を高めて知力を育てる”こと。子ども自身はおもちゃで伸び伸びと遊びながら、それが脳や神経の発達にもいい影響を与えるとして注目を集めています。多くはキャラクターを用いていたり、派手な色使いだったりと子ども目線で作られていますが、実はそれらとはまったく違う観点でもの作りをしているブランドがあるのです。
愛媛県発のFÖRNE(フォルネ)は、グラフィックデザイナーであり3児の母親でもある伊場麻世さんが立ち上げた、知育玩具やインテリア雑貨を展開するプロダクトブランド。同県にある印刷会社とタッグを組み、商品の企画から製造、オンラインショップでの販売まで一貫して手がけています。
そのデザイナーであり、ディレクターでもある伊場さんの自宅兼仕事場を訪れたのは、2023年1月のこと。玄関のドアをくぐると、昨年秋に生まれたばかりの3人目のお子さんと一緒に笑顔で出迎えてくれました。
「子どもと一緒に使ってみて、ママにこそ気に入ってほしいんですよね」と伊場さんは話します。大人でも思わずかわいいと声に出してしまうようなデザインの積み木、ひらがなやアルファベット、動物の絵が並んだ、グレーやベージュの知育ポスター……。ひと目見ただけで原色やキャラクターもののそれとの違いは明らかです。使う色数を絞っていて、イラストは線画のような簡素なものばかり。あえてシンプルに仕上げているデザインは子どもにとっても見やすそうで、まっすぐに分かりやすさが感じられます。
「あの大変な時期に、家で子どもといる時間を少しでも楽しくしたかった」と発案した紙の工作、ペーパープレイブックは、コロナ禍の2020年夏に発売されたもの。ページをパラパラとめくると、そのニュアンスを帯びた色やモチーフは、つい集めたくなるポストカードのようとでもいうか――。大人目線でも満足できるデザインで、リビングに転がっていても嫌じゃなく、むしろ飾っておきたくような見た目です。そうやって大人と子どものどちらもが心から楽しめるものを、しかも一緒につくるという体験は、実はとても貴重なことなのかもしれないと、ふと感じます。
親子でものを作って遊んだり学んだりすることを、もっと身近に感じて欲しい。そんな想いから4年前に誕生した小さなブランド。子どものためのものだけれど、母親の“好き”も決して置いてきぼりにしない。今までになかった視点で、オリジナルのアイテムが少しずつ生み出されています。「育児中の困ったことやしんどいことも、ちょっとした工夫だったりデザインの力で解決できるかもしれない。その手助けができたらいいなって。長いスパンで見ると使うのはほんのひとときだろうけど、その人の子育ての一瞬に携われているのって、改めてすごいことだなと思っています」

落ち着いた配色の知育ポスター。お風呂の壁にも貼ることができる防水性のある紙を採用。

大人目線でも満足度の高さを感じられる
インテリアアイテムが豊富

インテリアはフォルネにとって大切なキーワードのひとつ。実際、伊場さんのご自宅のリビングをぐるりと見回すと、壁には自身で描いたという絵が何枚も掛けられています。グレーとピンクの組み合わせが印象的な壁面も、リフォームの際に家族みんなでペンキを塗ったものなのだそう。
実は、フォルネを立ち上げる準備段階では、大人向けのインテリア雑貨ブランドとして構想を練っていた時期もあったようです。「インテリアやアートの分野で表現してみたいことはいっぱいあったんですが、もうすでに世の中には素敵なものがいっぱい溢れてて。自分がつくる必要があるのかも含めて、すごく迷っていました」
そこで伊場さんが見つめ直したのは、グラフィックデザイナーで、一人の母親でもある自分自身のこと。今の感性と今の環境でしかできないことをと考え、親子向けのプロダクトブランドという結論にたどり着きました。
「大人の方にも素敵だな、と思ってもらえるものが理想。カラフルなものや原色も好きですが、インテリアや洋服にも合わせやすい、普段使いしやすい色であることは私の中の基本です。ピンクでもちょっとグレーがかった色みにしたり、くすんだトーンにすることでお部屋に馴染みやすくなるんです。同じ色でもほんの数パーセント赤や青を強くするだけで全然印象が変わるのも面白くて」
たしかに何万という中から伊場さんが選ぶ色合いはどんなテイストのインテリアにもすっと馴染んでくれるような、絶妙なさじ加減。子ども向けのグッズとはいえ、いつも目に入る場所にあっても主張しすぎることのない、ちょうどよい塩梅(あんばい)が際立ちます。
そしてどんな材質にするかという点も、色選びと同じくらい大切にされていること。幾何学形の紙のパーツを組み合わせてつくるモビールは、ほんの少しざらっとした厚手の紙にすることでモビールが浮遊するときの陰影の出方まで楽しめるようにと趣向を凝らしています。
「デザイナーなのでもともといろんな紙を見るのが好き。商品の紙を決めるときは、紙見本を大量に見比べたりして。言葉で表すのは難しいけど……触ってみていいなって思えるものを選んでいます。よく見ないとわからないくらいの違いなんですけどね」と伊場さんは笑います。
ゆったりと宙をたゆたうモビールを眺めていると、色が濃くなったかと思えば、はたまた急に明るく見えたり。思わず自分の目を疑ってしまうような、不思議な感覚を覚えます。日常の中でほんの少し気持ちに余白をもたらしてくれるのは、こういうものなのかもしれません。

色とりどりのカードを自分好みにレイアウトできる卓上カレンダー。

家型カレンダーはインテリアにすっきり馴染む。

表紙にヒノキとペンシルシダーのフレームを付けたスケッチブック。中の紙は白、グレー、ベージュ、ブラウンなどのシックなカラーバリエーションで統一。

3人を育てる現役のグラフィックデザイナーが
商品をイチから企画・デザイン

家具職人の父とグラフィックデザイナーの母という両親のもとに生まれた伊場さん。高校卒業後は大阪でグラフィックデザインを学び、デザイン事務所での経験を経て、出産を機に2011年に愛媛県へ戻ってきました。2人の子どもを育てながらフリーランスのグラフィックデザイナーとして活躍する中、転機が訪れたのは2018年。仕事仲間からフィンランドへの旅に誘われたことがきっかけでした。
「一緒に北欧に行く?と言われたとき、思わず行きます!と即答。今思えばこの一言がなかったらフォルネは生まれてなかったかも」というほど、これが大きな分岐点となったそうです。それまでは依頼されたものをつくるというクライアントワークがほとんどでしたが、「自分は本当は何をしたいのか見つめ直すチャンスになった」フィンランドへの旅。そこに示し合わせたかのように、帰国後すぐ、事業の多角化を図っていた明朗社(フォルネの製造・運営会社)から一緒に新しいことを始めないかという誘いを受けます。奇跡的ともいえる、同時にチャンスが訪れたこのタイミングで、伊場さんはいよいよ「自分のブランドを作りたい」と一念発起――。
「そう決めてからは本当に作りたいものをとにかく探し続けました。得意なことや好きなこと、小さい頃に心を動かした体験は何だったかな、とか……。自分探しの旅ですね。愛媛や佐賀、福岡など国内のいろんなところへ行って自然を感じたり、子どもと一緒にものを作ったり。何かを吸収しようと必死でした」と、当時を振り返りながら伊場さんは口元をゆるませます。身長146cmというその小さな身体に、正面からぶつかってでもチャンスを掴みにいく、秘めたエネルギーを感じずにはいられません。
そうして試行錯誤を繰り返し、自分を見つめ直したことから誕生したのが現在のフォルネ。まるでフィンランド語のような響きですが、実は造語。こんなものを探していたと感じてくれる誰か一人に、ここにしかないオリジナルのものを届けたいという想いを込め、 “FOR ONE”から“FÖRNE”という名前をつけました。
「フォルネは仕事を超えてライフスタイルの一部というか、私にとってもう我が子のような存在。3人目のこの子も生まれたし、これから作ってみたいものややりたいことがいっぱいなんです」目を輝かせながら、そう話す伊場さん。その日々の実体験から次に生まれるのはどんなものなのでしょうか。今後も、目が離せません。

撮影:善家宏明
取材・文:宮内亜弥

フィンランドのイッタラ&アラビア デザインセンターで北欧デザインの本質に触れた伊場さん。

陶芸や絵などあらゆる分野にチャレンジ。「やってみたい! と思ったものを片っ端から作りました」

絵の具を垂らして紙を折ることで模様をデカルコマニーつくるデカルコマニー技法にトライ。

次男の七五三の際に「作りたい! とひらめいた」千歳飴袋は現在年間約3,000枚を売り上げる人気商品に。

第3子の性別を家族に発表するときに自作したジェンダーリビールカード。「子どもはまさかの全員男子。みんな大爆笑の楽しい記念になりました」

Information

名称/FÖRNE(フォルネ)
電話番号/089-958-6868
営業時間/平日 9:00〜17:00
ウェブサイトのURL/https://forne.net/
SNSのアカウント名/@forne_official