発信

「暮らしを紡ぐ人々〜石川・小松編③〜」
町家の古本カフェを営む、金田奈津代さん

石川県小松市。この地には、自然の恵みや伝統を背景に、自分らしい暮らしと仕事を紡ぐ人々がいました。安宅漁港で新鮮な魚を届ける中島睦美さん、接骨院でスモークチーズを作る百井和浩さん、築90年の町家を生かした古本カフェを営む金田奈津代さん、そして家族の笑顔を思いながらパンを焼き続ける吉野克俊さんと麻子さんのご夫婦。

それぞれの営みは決して大規模ではありませんが、丁寧に、心を込めて生み出されるものたちが、多くの人々の日々を彩っています。地元を愛し、家族や地域を大切にしながら挑戦を続ける4組の姿を通じて、「手のひらサイズ」の未来をつくるヒントを、4回に分けて、お届けします。

本とカフェでつながる時間|金田奈津代さんと「こまつ町家文庫」

JR小松駅から徒歩数分、築90年の町家を改装した「ふる本とカフェ こまつ町家文庫」があります。ガラス戸を開けると、オープンキッチンとカウンター。その奥には、木の温もりを感じる天井の高い古本カフェが。壁一面には、手作りジャムがずらり。その空間を切り盛りするのは代表の金田奈津代さん(48歳)。本と町家を愛し、小松の魅力を伝えるために奮闘する日々を送っています。

町家で古本カフェを運営する金田奈津代さん

町家文庫の移転と再スタート

この町家文庫の始まりは2010年。隣接する龍助町で、古本カフェ兼リサイクル図書館としてオープンしました。しかし、2013年に閉館を迎えたことで金田さんを含む運営スタッフたちが「町家文庫復活プロジェクト」を立ち上げ、2015年に新たに個人経営として再スタートを切りました。

ところが、2021年、龍助町の借家を退去する必要が生じました。「また借りたら同じことが起きるかもしれない。それなら、自分たちの居場所を作りたい」と、金田さんは八日市町に築90年の町家を購入し、改装して現在の町家文庫を再々スタートさせました。

「町家文庫は私にとって、本を通じて人がつながり、小松を知ってもらえる特別な場所です。どうしても残したかった」と語る金田さん。その想いが、この町家文庫の根幹を支えています。

駅から近いので、待ち時間に利用する方も多い

町家が語る歴史

小松市には「こまつ町家」と呼ばれる独特の町家建築が多く残っています。しかし、その多くは昭和初期の2度の大火の後に再建されたものです。「現在の町家は、昔の人たちが大火の被害を乗り越えて再建した証。その歴史を未来に伝えたい」と金田さんは語ります。購入した町家も、古い手すりや漆塗りの柱をそのまま活かしつつ、格子戸をガラス戸に変えて、誰でも気軽に立ち寄れる雰囲気に改装しました。

古本5000冊が紡ぐ物語

町家文庫には約5000冊の古本が並んでいます。中には、背表紙が色褪せたものや、前の持ち主がメモを書き込んだものも。「ここの本は、過去の持ち主の足跡を感じてもらえるんです。それもまた、楽しさの一つで魅力と感じてくれる方もいらっしゃいます。」と金田さん。寄稿本や珍しい本が舞い込むこともあり、中には価値の高い書籍もあります。

前の持ち主の足跡を感じる古本が並ぶ

1階はカフェスペース、2階は静かに本を読むための空間として、地元住民や観光客、仕事帰りのビジネスマンにも親しまれています。駅から近い立地を活かし、電車の待ち時間に訪れる人も少なくありません。

カフェスペースのある1階

ジャムで広げる地域の魅力

1階はカフェスペースとして利用され、ランチや軽食を楽しめます。土曜日には、金田さんのお父様が手打ちした蕎麦や、地元の野菜を使った天ぷらがメニューに並びます。カフェスペースは20席とこじんまりとしていますが、その温かい雰囲気に惹かれ、若い世代からお年寄りまで、幅広い客層が訪れています。

町家文庫のもう一つの名物は、手作りジャム「世界文学ジャム全集」です。世界の名作文学にちなんだユニークな名前と、小松を中心とした厳選素材を使ったジャムは約20〜25種類、訪れる人々に愛されています。

「収益を考えつつも、お客様に喜んでもらうものを作りたかったんです。町家文庫らしさを出したいと考えた時、文学のタイトルをテーマにすることで、本好きな人にも甘いものが好きな人にも刺さるものになればと思いました。」と金田さん。

世界の名作本と、金田さんが作る自家製ジャムがずらり

ジャムの素材には、小松や石川県の農家さんから仕入れたものを中心に、無農薬や安心して食べられるものを選んでいます。使用する砂糖も種子島産の粗精糖を採用し、体に優しい甘さに仕上げています。

「素材の良さを生かすために、ジャムはすべて店内で手作りしています。コツコツ、コトコト作る作業が楽しい。」と話す金田さんは休業日にジャム作りに没頭し、砂糖や水分量を素材ごとに調整しながら、一つひとつ丁寧に仕上げています。

ラインナップは「トマト・ソーヤーの冒険ジャム」「羅生姜門ジャム」など、文学好きなら思わず手に取ってしまいたくなる名前ばかり。味わいの調整やユニークな名前が評判を呼び、今では町家文庫のジャムはリピーターが多い人気商品となっています。「素材や味の組み合わせを変えると、ジャムの表情が変わるのです。それが面白くて、手作りを続けています。」

ジャム作りは町家文庫の収益の柱であると同時に、小松の食材や魅力を発信するツールにもなっています。「町家文庫を訪れるお客様に、小松の味を持ち帰ってもらいたい。そんな気持ちで作っています。」

世界文学ジャムシリーズは、商品名を眺めるだけでも楽しい

町家文庫と小松への愛

金田さんは生粋の小松市民。「旅が好きでいろいろな場所に行きましたが、小松に帰ってくるとほっとします。ご飯も美味しいし、海も山もある。何より人の温かさが心地よい。小松が一番だと思っています。」と、地元への愛情を熱く語ります。

建築や飲食、エステティックの仕事を経験した彼女は、すべてのスキルを町家文庫に注ぎ込んでいます。「インテリアも自分で集めましたし、設計の知識も活かしています。」と笑顔を見せる金田さん。その情熱が町家文庫の細部に宿っています。

未来への展望

現在、ジャムの生産が追いつかないほど人気が高まり、隣接する町家を買い取り、製造スペースを拡大する計画が進行中。「手狭になっていますが、自分たちで手作りの味を守っていきたい。これからも小松の魅力を伝え続ける場所でありたいですね。」と語る金田さんの目には、未来への希望があふれています。

<こまつ町家文庫 概要>

住所:石川県小松市八日市町46番地

TEL:0761-27-1205

営業時間:11時〜18時(定休日:日、月、火)

URl:https://machiya-bunko.com/

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