大分県の中央部、由布岳の北側に広がる塚原高原。標高約600メートルで、夏は深緑眩しいが、冬はマイナス10度以下になることもある一帯は、その自然の雄大さから「日本のスイス」と呼ばれているらしい。古くから田畑や牧場が開かれている塚原地区は、国内屈指の温泉地である由布院温泉の喧騒はなく、ゆったりとした時間が流れている。
choco✖️choco(チョコチョコ)は、その塚原地区の塚原牧場内に店を構える。「洋菓子店の名前はカタカナだったり、英語表記だったりして、なかなか覚えてもらえないじゃないですか。だから、シンプルな名前にしようと思って」と、店主の堀川春治さん。
ショーケースの中には、トリュフチョコレートからガトーショコラまでさまざまなチョコレート商品が並んでいた。
看板商品とも言うべき「クラシックガトーショコラ」は、みるく村の牛乳から作った自家製バターと、塚原高原で育ち青白い色をしている「アローカナ」の卵でしっとりと焼き上げた逸品。
また「アマンドショコラ」は、キャラメリゼしたナッツに口溶けの良いチョコレートをコーティングしている人気商品。
ほんのりとした甘さがクセになり、ぽいぽい口に運んでしまう。「僕はスイスにあるカルマというメーカーのチョコレートをメインに使っています。とてもおいしいし、すっきりとした味わいが日本人好みだと思って。このチョコレートのおいしさを知ってほしいです」と堀川さんは言う。
さきの自家製バターやアローカナをはじめ、ニホンミツバチのハチミツや無添加のドライフルーツなど地元食材を積極的に取り入れて、商品を作っている。温泉熱を利用して作られている「おんせんパプリカ」とチョコレートを組み合わせた限定商品を作ったこともあったという。
厨房も覗かせてもらうと、商品数が多い割にはこじんまりとした印象だった。「なめらかな口溶けにするためにはテンパリング(温度調整)が必須です。チョコレートをバーっと調理台に広げるイメージが強いみたいですが、仕上がりや衛生面を考えるとその方法をとっている人はほとんどいないはずですよ」と堀川さん。自身は電子レンジを活用しながらテンパリングをしているという。なるほど、だからこの広さで十分というわけだ。
もともと店主の堀川さんは高校卒業後、ホテルや旅館で接客業の仕事をしていた。有名高級宿の山荘無量塔(むらた)に勤務していた際に、無量塔がプロデュースする製菓部門に誘われ、「手に職がつくなら」とロールケーキやチョコレートを作ることに。未経験で飛び込んだ世界だったが、性にあっていたのだろう。気がつけば20年近くショコラティエとして働き、腕を磨いてきた。
2022年3月にchoco✖️chocoをオープン。コロナ禍が独立のきっかけの一つだったという。「コロナ禍になって、改めて自分の生き方ややりたいことを見つめ直したんですよね。そして、自分が辞めることで若い子たちがもっと活躍できる場を与えられると思ったし、独立するならば50歳までにしておきたいと思った。そして店を構えるなら、自分が生まれ育った塚原がいいなと」。コロナ禍の影響もあり苦労も絶えないというが、ふるさと納税の返礼品として出品をしたり、地元の農家とコラボレーションした商品を作ったりと、着実に輪を広げてきた。
堀川さんは「もっと人が集まる場所になってほしいし、同じ由布市でもこんなに素敵な場所があるんだよと知ってもらいたいですね」と今後の展望を語る。choco✖️chocoの店の脇にはハンモックやテーブルと椅子があり、取材したその日も親子連れの姿が見られた。すでに人が集まる場所になりつつあるのだろう。ぜひ由布院温泉を旅した際は、塚原にも足を伸ばし、自然の中で上質なチョコレートを味わってみては。
■choco✖️choco(チョコチョコ)
住所:大分県由布市湯布院町塚原609-52
電話番号:0977-75-8417
営業時間:10時〜16時
定休日:水曜日、ほか不定休
https://www.instagram.com/chocoxchoco_yufuin/