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社会性と商品性の両立を目指して
ソーシャルプロダクツ・アワード2025

2025年3月、一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会による「第12回ソーシャルプロダクツ・アワード2025(以下、SPA2025)」プレスカンファレンスが都内で開催されました。

このアワードは、環境や社会に配慮した「ソーシャルプロダクツ」の普及を目的に2012年から始まったもので、今年で12回目。SDGsやサステナビリティへの関心が高まる中、生活者が社会課題解決に関わるきっかけとなる商品・サービス「ソーシャルプロダクツ」を表彰する日本で初めての、そして唯一の取り組みです。

今回のテーマは2つ。「令和6年度能登半島地震からの震災復興につながる商品・サービス」と、「生活者が持続可能な社会づくりに参加できる商品・サービス」。全応募の中から選出された52点の受賞商品・サービスの中から、特に注目度の高い17商品・サービスがこの日会場に集まり、実物展示と企業によるショートプレゼンテーションが行われました。

各受賞企業の背景や商品に込められた想いが伝わる発表に、参加者たちも熱心に耳を傾けていました。

一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会の事務局長・深井賢一さん

アワードを主催する一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会の事務局長・深井賢一さんが登壇。

「APSPは、12年前に東日本大震災の1年後に2013年に設立されました。当時の復興商品は“寄付のつもりで買ってあげよう”という善意が主軸でしたが、それだけでは本当の市場にはなりませんでした。作り手の多くも被災された企業で、製造や流通の安定性に課題があったんです。品質にもバラつきがあって“しょうがないよね”という声も。でも、そうした商品は結局、長続きしない。そこで“商品としての価値をしっかり評価し、育てていく仕組みが必要だ”と考え、立ち上げたのがこのSPAです」と、アワード受賞商品に込めた思いを語りました。

著名な専門家による審査は、11月から12月にかけて実施され、審査員が1人あたり2~3時間かけて、出品された商品を実際に試用・試食する「現物審査」や、資料やWEBの確認をしながらストーリーを深く読み解いていくという、非常に丁寧なプロセスが取られています。

「現物を手に取り、味わい、議論するこの審査プロセスこそが、SPAの価値の核。選ばれる商品にはその背景にある物語や意図、品質や機能性までもが吟味されています。審査員のみなさんはそれぞれの分野で実績と経歴を持っています。トレーサビリティやデータエビデンスが不足していれば再提出を求めますし、場合によっては不適格となることもあります。そうしたプロセスを経て選ばれた商品だからこそ、信頼性と説得力があるのです」と深井さん。

実際に展示されていた商品たちは、それぞれが確かな“理由”をもってここに選ばれたことがひしひしと伝わってきました。

たとえば、【年度テーマ・大賞】を受賞した「ごろごろ果実の能登ブルーベリー」(ひらみゆき農園)は、規格外の果実に価値を与えることで、未利用資源の有効活用と地域農業の持続可能性を両立。地震被災地・能登の地に根差した挑戦として、注目を集めました。

【年度テーマ・大賞】を受賞した「ごろごろ果実の能登ブルーベリー」(ひらみゆき農園)

【自由テーマ・大賞】には、三本珈琲と鎌倉エシカルラボなどが共同開発した「鎌倉焙煎珈琲 フェアトレードかまくらブレンド」が選ばれました。フェアトレード認証を受けたコーヒー豆を使用し、再生可能エネルギーや障がい者支援、地域との協働など多面的な社会貢献を実現しています。売上の一部は鎌倉市の緑地保全基金に寄付され、購入を通じた地域貢献も可能です。

【自由テーマ・大賞】に選ばれたのは、「鎌倉焙煎珈琲 フェアトレードかまくらブレンド」

また、生活者の視点に立ったプロダクトも高く評価されました。

【年度テーマ・生活者審査員賞】を受賞した「伊藤園 とろり緑茶」は、高齢者や嚥下機能の低下した方に向けて開発された飲料です。東京大学大学院医学系研究科イートロス医学講座と共同で研究開発され、「味わいを損なわずにとろみをつける」という難題に幾度も試行錯誤を重ねた結果、時間が経っても均質なとろみを保ち、かつおいしさを両立したユニバーサルデザイン飲料が完成しました。現在では介護福祉現場への導入が進み、日常の中での飲用にも適した製品として注目を集めています。

「伊藤園 とろり緑茶」は【年度テーマ・生活者審査員賞】を受賞

【自由テーマ・生活者審査員賞】に輝いたのは、ウテナの「ゆず油」シリーズ。高知県北川村の名産であるゆずの“種”を捨てずに活用し、ヘアケア製品へとアップサイクルしています。同社は北川村、ウエルシアグループとの包括連携協定を締結し、地域の資源循環・活性化にも貢献。美容と環境保護、地域振興を結ぶ先進的な取り組みとして高く評価されました。

ウテナの「ゆず油」シリーズは、【自由テーマ・生活者審査員賞】を受賞

また、【自由テーマ・環境大臣特別賞】を受賞した株式会社スリーピングトーキョーは、「LOVEG オーガニック」というブランドを展開しています。全商品にJAS認証の国産有機大豆を使用し、ソイミートや大豆オイルなど、100%植物由来の商品を展開。製造時には再生エネルギーを使用するなど環境負荷の低減にも徹底的に取り組んでおり、農業支援や福祉施設との協業も行うなど、多方面にわたる社会的インパクトを実現しています。

【自由テーマ・環境大臣特別賞】を受賞した「LOVEG オーガニック」

深井事務局長は語ります。

「私が書いた書籍には、過去のSPA受賞企業をいくつも紹介しています。その多くは“社会性があるからいい”という発想ではなく、“伝わる商品をつくるにはどうすればいいか”を真剣に考えている企業です。最近では“値上げをどう共感に変えるか”というテーマで講演を頼まれることが増えました。つまり、商品としての納得性と共感をどうつくるか。SPAはそのためのひとつの実験場でもあるのです」

アワードという枠を超えて、商品と社会、そして生活者の“つながり”を強く感じることができた1時間でした。ソーシャルプロダクツという概念が、これからの時代の新しい「当たり前」になる日も、そう遠くないかもしれません。

今年で12回目となる「ソーシャルプロダクツ・アワード2025のプレスカンファレンスで思いを語る、深井事務局長

<参考>一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会:https://www.apsp.or.jp/